むし歯や歯周病のように「細菌が原因」とはっきりしているトラブルとは別に、自分の歯やあごを内側から痛めてしまう習慣があります。それが歯ぎしりや食いしばりです。多くは寝ている間や、何かに集中しているときに無意識でおこなわれるため、本人はまったく気づいていないことも少なくありません。気づかないまま続くと、歯がすり減ったり、ひびが入ったり、あごや肩に不調が出たりすることもあります。ここでは、見つけにくいこの習慣のサインと、放置したときの影響、そして自宅と歯科でできる対策を整理してみます。
歯ぎしり・食いしばりとは
歯ぎしりや食いしばりは、まとめて「ブラキシズム」と呼ばれることがあります。大きく分けると、ギリギリと歯をすり合わせるタイプ、上下の歯を強く噛みしめるタイプ、カチカチと小刻みに鳴らすタイプがあります。どれも共通しているのは、食事のように必要があってかむのではなく、無意識のうちに歯に大きな力をかけてしまっている点です。
私たちが食事でかむときの力は意外と限られていますが、就寝中の食いしばりでは、その何倍もの力がかかることがあるといわれています。短い時間でも、毎晩のように繰り返されれば、歯やあごへの負担は積み重なっていきます。日中、パソコン作業や運転、運動などに集中しているときに、気づくと上下の歯が触れている、という人も少なくありません。
気づきにくいサインの見分け方
歯ぎしり・食いしばりのやっかいなところは、自覚しにくいことです。寝ている間のことは自分では確かめようがありませんし、日中の食いしばりも「クセ」として体になじんでいると気づきにくいものです。次のようなサインがいくつか当てはまる場合は、無意識の力がかかっている可能性があります。
- 朝起きたときに、あごがだるい、または口を開けにくいと感じる。
- 歯の先端が平らにすり減っている、または奥歯のかみ合わせの面がツルツルになっている。
- 冷たいものがしみるようになった(すり減りで歯の内側が露出することがあります)。
- 頬の内側や舌のふちに、歯型の跡がついている。
- こめかみや頬の筋肉が張る、朝に頭が重い感じがする。
- 家族から「寝ているときにギリギリ音がする」と指摘されたことがある。
すべてがそろう必要はありません。一つでも思い当たるものがあれば、一度立ち止まって自分のかみ合わせを意識してみるとよいでしょう。とくに「歯型の跡」と「朝のあごのだるさ」は、自分でも確かめやすいサインです。
放置するとどうなるか
歯ぎしり・食いしばりは、すぐに痛みが出るわけではないため、つい後回しにされがちです。しかし、長く続くと次のような影響が出てくることがあります。
歯へのダメージ
過度な力が繰り返しかかることで、歯がすり減ったり、表面に細かいひびが入ったりすることがあります。すり減りが進むと、かみ合わせが低くなったり、歯がしみやすくなったりします。詰め物やかぶせ物が欠けたり外れたりする原因になることもあります。
あごや筋肉への負担
あごを動かす筋肉に力がかかり続けると、こめかみや頬の筋肉が張ったり、あごの関節に違和感が出たりすることがあります。口を開けにくい、開けるときに音がするといった症状につながる場合もあります。
歯ぐきや周囲への影響
強い力は、歯を支える歯ぐきや骨にも伝わります。すでに歯周病がある場合、力の負担が重なることで状態が進みやすくなる可能性も指摘されています。むし歯や歯周病とちがって「原因の細菌」がないぶん見落とされやすいのですが、歯を失う遠回りの要因になりうる習慣だといえます。
自宅でできるセルフケア
歯ぎしり・食いしばりは、クセそのものを完全になくすのは簡単ではありません。それでも、力がかかる時間を減らす工夫はできます。とくに効果が期待しやすいのが、日中の食いしばりに気づいて、その場でゆるめる習慣です。
- 「歯を離す」を意識する:上下の歯は、本来は会話や食事のとき以外ほとんど触れていません。気づいたときに、ふっと力を抜いて歯を離すクセをつけるだけでも、日中の負担を減らせます。
- 目につく場所に合図を置く:パソコンやスマートフォンに「歯、離れてる?」とメモを貼っておくと、思い出すきっかけになります。
- 就寝前にリラックスする時間をつくる:緊張やストレスが背景にあることも多いため、寝る前にあごや肩の力をゆるめる、深呼吸をするなど、体をほぐしてから休むようにします。
- かみ合わせに偏りを作らない:いつも同じ側でかむ、頬づえをつくといった日常の偏りも、あごに余分な負担をかけることがあります。
これらは特別な道具がなくても始められます。すぐに音が止まる、というものではありませんが、「気づいてゆるめる」を積み重ねることが、日中の食いしばり対策の土台になります。
歯科でできる対策
セルフケアだけでは抑えきれない場合や、すでに歯のすり減り・あごの不調が出ている場合は、歯科で相談するのが安心です。歯科でおこなわれる対応には、一般的に次のようなものがあります。
- マウスピース(ナイトガード):就寝中に装着し、歯やあごにかかる力をやわらげて、すり減りを防ぐ目的で使われることがあります。お口に合わせて作るのが一般的です。
- かみ合わせの確認:すり減りや、詰め物・かぶせ物の高さによって、力が一部に集中していないかを診てもらえます。
- すでに傷んだ歯のケア:欠けた歯やしみる歯があれば、その治療とあわせて、再発を防ぐ視点でアドバイスを受けられます。
どの方法が向いているかは、すり減りの程度や症状によって変わります。自己判断で市販の製品だけに頼るより、まず現状を診てもらったうえで選ぶほうが安心です。睡眠中の習慣や口腔の健康とのかかわりについては、e-ヘルスネット(厚生労働省)の解説も参考になります。
歯ぎしり・食いしばりは、痛みが出てから気づくことが多い習慣です。だからこそ、定期検診のときに歯のすり減りやかみ合わせもあわせて診てもらうと、早い段階で手を打ちやすくなります。気になるサインがあれば、次の受診のときに一度伝えてみるとよいでしょう。